日本で住居などの建物を建築する際には、地震による損壊・倒壊リスクを軽減するための法的規制「耐震基準」を満たす必要があります。これまで耐震基準は、実際の地震の発生や将来予測をきっかけに強化され、大きく分けて現行の「新耐震基準」と「旧耐震基準」の2つが存在しています。
投資用物件を購入する際、築年数が経過した物件の中には「旧耐震基準」で建築されたものもあり、耐震性に不安を感じる方もいるかもしれません。
今回は…
「新耐震基準」と「旧耐震基準」の基礎知識をはじめ、耐震基準から見た物件選びのポイントなどについて解説します。
目次
そもそも「耐震基準」とは?
はじめに、「耐震基準」とそれを規定する建築基準法について見ていきましょう。
建築基準法(耐震基準)に適合した建物しか着工できない
耐震基準は、建築基準法と建築基準法施行令で定められているもので、地震の揺れに対して、建物が倒壊や損壊を免れるために最低限満たすべき耐性基準のことです。
現在、日本で新たに建物を建築する前には、自治体や指定審査機関へ「建物確認申請」を行い、建築基準法や各自治体条例に違反していないか審査を受け「確認済証」が交付されなければ着工することはできません。つまり、新たに建てられた建物は、基本的には法令で定められた耐震基準に適合していることになります。
★ポイント★
建築基準法は複数回にわたって改正されてきたため、審査を受けたタイミングによって適合すべき条件が異なります。主に着工年月(建築確認申請の時期)を目安にすると、いつの耐震基準をクリアしているのかが判断できます。
建築基準法と耐震基準の歴史的遷移
歴史を振り返ると…
1920年 | 日本で最初の全国規模の建築に関する法律「市街地建築物法」が施行 |
1923年 | 9月1日に関東大震災が発生 |
1924年 | 「市街地建築物法」改正、法令として初めて耐震条項が規定 |
1950年 | 「市街地建築物法」廃止、新たに「建築基準法」が施行 |
「建築基準法」が施行されたことにより、今の「旧耐震基準」と呼ばれる基準ができました。
新耐震基準・旧耐震基準とは?
続いて「新耐震基準」と「旧耐震基準」の概要について解説します。
旧耐震基準とは?
「旧耐震基準」とは、10年に一度発生すると考えられている「震度5強程度」の中規模な地震に対して、家屋が倒壊や損壊をせずに耐えられる基準のことをいいます。1950年に施行された建築基準法で規定され、1981年5月31日まで適用されていました。
新耐震基準とは?
1981年6月1日から新しく施行された耐震基準は「新耐震基準」と呼ばれ、現在も適用されている基準です。
「新耐震基準」では、耐震性に関する次のような点が強化されました。
・「震度6強~震度7程度」の大規模地震でも人命に危害が及ぶような倒壊などの被害が生じない
・「震度5強程度」の中規模地震では、ほとんど損傷しない
この改定は、1978年に発生した宮城県沖地震での被害がきっかけです。宮城県沖地震での被害状況は以下のようなものでした。
・マグニチュード:7.4(震度5)
・主な被害地域:仙台市域(旧泉市・旧宮城町・旧秋保町含む)
・死傷者数:死者16人、重軽傷者10,119人
・住家全半壊:4,385戸、一部損壊:86,010戸
実際に起きた地震被害を教訓として「新耐震基準」が導入され、新耐震基準が適用された建物は、厳しい耐震基準によって建てられています。
新耐震基準と旧耐震基準の違いを解説
「新耐震基準」と「旧耐震基準」の最も大きな違いは、すでに触れたように「耐えられる地震の規模の違い」です。それぞれ詳しく解説します。
旧耐震基準:震度5強程度の中規模地震に備える建物設計
旧耐震基準は、「震度5強程度の中規模な地震の揺れでもほとんど建物が損傷しない」ことを目標にしています。
技術的には、地震発生時に建築部材が耐えられる最大の力(許容応力度)を考慮した計算を行い、判断基準としています。また、建物には「粘り強さ」があり大地震にも耐えられるという考え方で、建物が残存している間に発生する数回程度の地震を想定していました。
新耐震基準:震度6強~震度7程度の大規模地震に備える建物設計
新耐震基準は、「震度6強~7程度の大規模な地震の揺れでも建物が倒壊・崩壊しない」ことを目標にしています。
技術的には、旧耐震基準の「許容応力度」部分を一次設計とし、それに加えて「保有水平耐力」部分を二次設計と呼び、建物の耐震基準を2段階で計算することが義務付けられました。
保有水平耐力とは、建物に対して水平にかかる力に、建物が耐えられる抵抗力のこと。地震発生時の建築物の変形(粘り強さ)への安全性が考慮されています。
2000年の建築基準法改正(2000年基準、新・新耐震基準)の概要
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災(国内初の震度7を観測)の被害をきっかけに、建築基準法は2000年にさらに厳しい耐震基準へと改正されました。
2000年の改正は「2000年基準」や「新・新耐震基準」とも呼ばれ、主な改正内容は、木造住宅に対して次の3つを新たに義務付けた点です。
・地盤の強さに合わせて基礎を設計すること
・耐震壁の配置バランスを考慮し、頑丈な家にすること
・直下型地震の縦揺れによって柱の足元や頭部分が基礎や梁から抜けてしまわないよう、筋かい金物や柱頭柱脚接合金物の使用を規定
引用:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント(国土交通省)
2016年4月14日と16日に発生した熊本地震(それぞれ震度7を観測)では、2000年以降に建てられた木造建物の倒壊・大破の割合は全体のわずか6%と大幅に被害を抑えられたことからも、2000年基準の重要性を改めて認識する結果となりました。
新耐震基準の物件は大地震に本当に強いのか?
実際の地震被害をきっかけに改正されてきた建築基準法ですが、「新耐震基準」に適合する建物は本当に大地震に耐えられるのでしょうか?
結論からいえば、新耐震基準以降の時期に建てられた建物の被害は、それ以前の旧耐震基準の時期よりも大幅に少なく、特に2000年以降の建物ではさらに被害件数が抑えられています。
ここからは、実際に起こった「阪神・淡路大震災」や「熊本地震」での被害状況を例に、新耐震基準が適用された1981年6月以降とそれ以前の建物の被害状況について見ていきましょう。
阪神・淡路大震災での被害状況
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災(震度7)において、建築年別の被害状況を建設省(現国土交通省)の「平成7年阪神・淡路大震災建築震災調査委員会中間報告」で確認すると、
1981年以前に建築された建物については、大破以上29%、中破20%、小破18%と全体の67%
1982年以降に建築された建物については、大破以上8%、中破5%、小破11%と全体の24%
となっており、1982年以降に建築された建物については全体の75%の建物が軽微な損傷、または無被害でした。
引用:平成7年阪神・淡路大震災建築震災調査委員会中間報告(Web参照元は神戸大学)
熊本地震での被害状況
2016年4月14日と16日に熊本県で発生した熊本地震(震度7を2回観測)での地震の被害状況は、国土交通省の『「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント』によると、
1981年5月以前に建築された木造建物が倒壊・大破した割合は、あわせて45.7%
1981年6月~2000年5月の建物の倒壊と大破は、あわせて18.4%
2000年6月以降の建物では倒壊と大破は、あわせて6%
となっています。
旧耐震基準と新耐震基準の物件の見分け方とは?
旧耐震基準と新耐震基準のどちらの物件かを見分けるには「建築確認日」の確認が必要です。
建築確認日は、役所に建築確認申請をして審査を受け、各種法令に適合していると判断されたら発行される「確認済証」の交付日のことです。「竣工日や築年月日」は建物が完成した日付なので、その違いには注意しましょう。
なお、1999年に施行された改正建築基準法前は「建築確認通知書」と呼ばれていましたが、それ以降は「確認済証」と名称が変更されました。
■確認済証(建築確認通知書)の交付日による見分け方
・旧耐震基準の建物…1981年5月31日までに「建築確認通知書」交付
・新耐震基準の建物…1981年6月1日以降に「建築確認通知書」(または「確認済証」)交付
「確認済証」は通常、建築中は建築会社が保管しておき、物件引き渡し時に所有者に渡されます。
新耐震基準の投資用物件を購入するメリット
ここからは、新耐震基準で建てられた投資用物件を購入するメリットについて解説します
地震発生時、建物への被害を最小限に抑えられる可能性が高い
万が一、大地震によってマンションなどの建物全体が倒壊や損壊してしまうと、入居者退去によって家賃収入がなくなると同時に、使えなくなってしまった建物の処理費用なども新たに発生してしまいます。
投資用物件が新耐震基準を満たしていれば、震度6強~震度7程度の大規模な地震が発生したときでも、建物の倒壊や損壊を免れ、被害を最小限に抑えられる可能性が高くなります。
地震発生時にオーナー責任となる損害賠償リスクを軽減できる
地震によって投資用物件が倒壊や損壊し、入居者がケガや死傷した場合でも、地震は自然災害なので、通常、オーナーは賠償責任を負いません。
しかし、地震発生時に建物の欠陥や老朽化など、建物になんらかの「瑕疵(かし)」があることにより生じた被害については、オーナーに損害賠償責任が発生する可能性があります。実際に阪神・淡路大震災で倒壊した賃貸マンションで入居者が死亡した事案で、賃借人に対して損害賠償が命じられたケースがあります(神戸地裁平成11年9月20日判決)。
新耐震基準であれば、震度6強~震度7程度の揺れでも倒壊や崩壊しないことを構造基準として建てられた物件であるため、こうした損害賠償リスクを軽減できるというメリットがあります。
旧耐震基準の投資用物件(中古物件)のリスクとは?
新築物件であれば新耐震基準に適合しているので心配ありませんが、中古物件の中でも築年数が古い場合には旧耐震基準の物件もあるかもしれません。
ここでは、旧耐震基準の投資用物件を購入するリスクについて解説していきます。
建物・設備老朽化のリスク
旧耐震基準の物件は、現時点で築40年以上経過しています。鉄筋コンクリート造の建築物の法定耐用年数は47年とされていることから、築年数が経過するほど建物の劣化が進み、耐久性が損なわれていくことも考えられます。
また、電気やガス、給排水の配管・設備に関してもそれぞれ15~30年程度が寿命とされているので、適切に管理や補修が行われていなければ、漏水や停電、悪臭などのトラブルが発生するリスクもあります。
建て替えのリスク
旧耐震基準のマンションは、たとえ建物や設備が寿命を迎えていなくとも、入居者の大多数の合意により建て替えが行われることがあります。40年以上経過している旧耐震基準の投資用物件であれば、現在すでに建て替え問題が浮上している、もしくは近い将来に、建て替え問題が浮き彫りになる可能性があることも念頭に置いておかなければなりません。
そもそも現在では、築30年を超えるマンションでも新耐震基準が適用されているため、旧耐震基準のマンションでは新しい入居者を見つけることが難しいでしょう。
修繕積立金が高額になるリスク
「修繕積立金」とは、マンションの共有部分について行う建物の大規模修繕工事にあてられる費用のことです。長期修繕計画に基づいて決まった金額を区分所有者から徴収します。
大規模修繕は通常10~15年程度のサイクルで計画され、修繕対象となるのは、建物の外壁補修や屋上防水、配管補修、エレベーター改修、共用廊下やベランダの補修などです。特に旧耐震基準のマンションの場合は、建物や設備の劣化によって修繕箇所が多く生じる可能性が高いため、修繕積立金も高額になる可能性があります。
不動産投資ローン審査が通りにくいリスク
旧耐震基準のマンションは担保評価が低くなるため、不動産投資ローンの審査に通りにくいというリスクがあります。
ローン審査は「十分な返済能力があれば問題ない」というわけではありません。旧耐震基準のマンションの事業収益性を考えたときに、建て替えリスクや、売却時に客が付かないなどのリスク要因も大きいため、金融機関が事業収益性を厳しく見る可能性が高まります。
投資用物件は新耐震基準を満たす新築を選ぶのが安心!
今回、解説してきたように、建物の耐震基準「旧耐震基準」と「新耐震基準」には大きな違いがあります。旧耐震基準のマンションは、地震発生時の倒壊・損壊リスクが高いだけでなく、そもそも築年数が40年以上のため老朽化が進んでいる可能性があり、適切な建物管理や修繕が行われていないと大きなリスクがあります。
その点、投資用物件を購入する場合に新築マンションを選べば、新耐震基準を満たしていて、最新の設備も備えていることから、入居者も安心して生活できることでしょう。
新築ワンルームマンションの資産運用実績が豊富なメイクスでは、専門知識を持ったコンサルタントが最適な資産運用をサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。
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