インボイス制度は不動産オーナーに影響あり?賃貸経営の対応解説 

最終更新日:2024.01.12 (公開:2023.11.24)

2023年10月、インボイス制度がスタートしました。インボイス制度は消費税に関する制度のため、不動産投資とは一見関係がないように感じるかもしれません。しかし、店舗や事務所などテナント物件を賃貸しているオーナーには影響する可能性があります。 

今回は、インボイス制度や消費税に関する基礎知識や、インボイス制度が不動産投資に与える影響と対処法について解説します。 

インボイス制度は不動産オーナーに影響するのか? 

2023年10月1日から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、消費税が記載された事業者間の請求書に関する制度です。 

買い手は、消費税額の計算時に仕入税額を控除するためには、売り手からインボイス(適格請求書)の交付を受け、インボイスを保存する必要があります。これにより、売り手が買い手に対して、正確な適用税率や消費税額などを伝えることができます。 

売り手がインボイスを交付するには、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けなければなりません。そして、適格請求書発行事業者となった場合には、課税売上が1,000万円以下であっても消費税の申告と納付が必要です。 

インボイス制度は、不動産投資で賃料収入があるオーナーに影響する可能性がありますただし、すべてのオーナーが関係するわけではありません。 

例えば…
事務所や店舗といったテナントの賃料は消費税の課税取引に該当しますので、買い手が賃料にかかる消費税を仕入税額として控除するには、売り手が適格請求書発行事業者でなければ買い手の税負担が増加します。 

一方、詳しくは後述しますが、地代(土地の譲渡や貸付)、住宅用家賃(貸付期間1カ月未満を除く)などは消費税の課税対象にならない非課税取引とされているため、インボイス制度の影響はありません。

■参考:インボイス制度の概要|国税庁

インボイス制度による不動産投資への具体的な影響を解説 

インボイス制度によって不動産投資にどのような影響があるのか、以下の2つの具体的なオーナーへの影響について解説します。 

・投資内容によっては適格請求書発行事業者になる必要がある
・適格請求書発行事業者にならないと賃貸契約に影響する場合もある

投資内容によっては適格請求書発行事業者になる必要がある 

事務所や店舗などの建物や駐車場を貸す場合、その賃料や駐車場代は消費税の課税対象となります。そのため、不動産投資の対象が事務所や店舗などの場合は、不動産の借り主からインボイスの交付を求められる可能性があります。 

インボイスは適格請求書発行事業者しか発行できないため、インボイスを発行するには、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請をしなければなりません。 

不動産オーナーが適格請求書発行事業者でない場合、不動産の借り主である課税事業者は賃料や駐車場代にかかる消費税を仕入控除に含められず、課税事業者の消費税の税負担が増加してしまいます。 

なお、居住用物件に付いている駐車場の貸付が消費税の課税対象となるかどうかは、ケースバイケースです。詳しくは後述しますが、条件によって異なるため、税理士など専門家へのご相談をおすすめします。 

適格請求書発行事業者にならないと賃貸契約に影響する場合もある 

不動産オーナーが適格請求書発行事業者ではない場合、不動産の借り主の消費税の税負担が増加するため、借り主がテナントから退去したり、賃料の減額を要求されたりする可能性があります。そうなれば、賃貸経営の収益性が低下してしまいます。 

ただし、オーナーが免税事業者であっても以下のような経過措置があります。 

・2023年10月から2026年9月までの3年間は、消費税の80%は控除が可能 
・2026年10月から2029年9月までの3年間は、消費税の50%は控除が可能 
・2029年10月以降は控除不可 

また、借り主が「簡易課税制度」を選択している事業者であれば、事業区分ごとのみなし仕入率で仕入税額控除を計算するため、不動産オーナーが適格請求書発行事業者であるかどうかによる納税額の計算方法に影響はありません。従来通りの通常の計算方式で対応可能なため、この場合はインボイス制度が賃貸契約に影響を与える可能性は低いでしょう。 

不動産オーナーがインボイス制度について知っておくべき3つの項目 

インボイス制度について把握するためには、いくつかの基本事項を押さえておく必要があります。ここでは、不動産オーナーが知っておきたい、インボイス制度にかかわる以下の3つの項目についての基礎知識を解説します。 

・そもそも消費税とは? 
・仕入税額控除とは何か? 
・課税事業者と免税事業者とは? 

そもそも消費税とは? 

消費税とは…
「商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、消費者が負担し事業者が納付」する税金(間接税)。日本国内で、事業者が事業として対価を得て行う取引をする場合、そのほとんどの取引が消費税の課税対象になる。 

間接税である消費税には、納税の仕組みに特徴があります。消費税を負担するのは消費者ですが、直接、消費者が税を納めるわけではありません。取引価格に含まれる消費税分を、事業者が申告・納付する仕組みになっています。 

また、取引のすべてが課税対象となるわけではなく、消費税の意味合いや社会政策上の観点から課税・非課税が判断されます。

非課税の取引には…
住民票などの発行にかかる行政手数料、社会保険医療、介護保険サービス、出産費用、埋葬料や火葬料、学校の入学検定料・入学金・授業料(一定要件あり)などがあります。 

不動産投資については、投資対象が居住用物件であれば非課税となり、事務所や店舗などの事業用物件であれば課税対象です。 

■参考:消費税のしくみ|国税庁

仕入税額控除とは何か?

消費税の仕入税額控除とは…
課税事業者が消費税額を算出する際に、課税売上の消費税額(売上税額)から仕入れや経費の消費税額(仕入税額)を控除する計算のこと。 

課税事業者は、売上税額から仕入税額を差し引いた金額を納付します。計算式を分かりやすく説明すると、以下のようになります(※一般課税の場合)。 

消費税額=売上の消費税額(売上税額)-仕入れや経費などの消費税額(仕入税額) 

インボイス制度導入前は「区分記載請求書等保存方式」だったため、仕入税額を控除するにあたっては「区分記載請求書等」の保存と区分経理に対応した帳簿を保存すればよいとされていました。しかし、2023年10月以降、原則として仕入税額控除の適用を受けるためには、インボイス(適格請求書)の保存が必要となりました(経過措置や特例があります)。 

■参考:
No.6355 課税売上げと課税仕入れ|国税庁 
免税事業者等からの仕入れに係る経過措置 

課税事業者と免税事業者とは?

課税事業者とは、消費税の納税義務のある事業者のことです。 

課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者が課税事業者となります。また、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、その課税期間は課税事業者です。 

一方、基準期間や特定期間の課税売上高などが1,000万円以下の事業者は免税事業者となり、消費税の納付義務が免除されます。ただし、適格請求書発行事業者として登録している間は、課税売上が1,000万円以下の免税事業者であっても納税義務は免除されず、課税事業者となります。 

■参考:特定期間の課税売上高による免税事業者の判定

インボイス制度に対して不動産投資のオーナーはどのように対応すべきか?

では、不動産投資をしているオーナーは、インボイス制度に対してどのように対応すべきなのでしょうか。ここからは、具体的な対応策について解説します。 

居住用物件のオーナーの場合 

不動産投資の対象が居住用建物(マンション・アパート)の場合、適格請求書発行事業者に登録する必要はありません。なぜなら、住宅用建物の貸付は、貸付期間が1カ月未満である場合などを除いて、消費税の対象にならない非課税取引とされているからです。 

しかし、入居者の希望によってハウスキーピングなどのサービスを行う場合の料金や、居住用建物の駐車場を入居者に貸し出すときは条件によって課税対象となるケースがあります。 

駐車場代の場合、以下のような要件をすべて満たさないと課税対象になり、適格請求書発行事業者への登録の検討が必要になってきます。 

・入居者1戸あたりにつき1台分以上の駐車スペースが確保されている 
・駐車スペースは自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられている 
・家賃と別に駐車場代などを徴収していない

■参考:集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定|国税庁

テナントオーナーが課税事業者で借り主が課税事業者の場合

不動産のオーナーも借り主も課税事業者であれば、適格請求書発行事業者に登録することをおすすめします。適格請求書発行事業者になっていれば、不動産の借り主が一般課税を選択している課税事業者であっても、借り主の税負担は増加せず、これまで通りの経営が可能です。 

借り主が簡易課税を選択している場合には、事業区分ごとのみなし仕入率で仕入税額控除を計算するため、インボイスの交付を求められる可能性は低いでしょう。しかし、今後の借り主が簡易課税を選択しているとも限らないため、適格請求書発行事業者になっておくほうが無難です。 

テナントオーナーが免税事業者で借り主が免税事業者の場合

不動産の借り主が免税事業者である場合、インボイス制度への対応は不要です。なぜなら、免税事業者は消費税の納付を免除されているからです。消費税の申告をする必要がないため、仕入税額控除を行う必要がありません。つまり、今まで通りの経営が可能です。 

ただし、今後借り主がかわる可能性がありますから、その場合は次で解説する「テナントオーナーが免税事業者で借り主が課税事業者の場合」を参考にしてください。 

テナントオーナーが免税事業者で借り主が課税事業者の場合 

不動産のオーナーが適格請求書発行事業者ではなく、不動産の借り主の一部またはすべてが一般課税を選択している課税事業者である場合、借り主はインボイス制度により税負担が増えます。不動産のオーナーがインボイスを交付できないことで、家賃にかかる消費税を仕入税額とすることができないからです。 

そうなれば、次に挙げるいずれかの対応を迫られることになるでしょう。 

・適格請求書発行事業者になってインボイスを交付する 
・消費税分だけ家賃の値下げをする 

適格請求書発行事業者の登録を受けている間は消費税の納税義務が課されるため、どちらがメリットがあるか検討する必要があります。 

所有不動産を売却する場合

不動産投資では、キャピタルゲイン(売却益)を得るために不動産の売却をするタイミングもあるでしょう。土地の譲渡は消費税の対象とならない非課税取引ですが、建物の譲渡には消費税が課税されます。そのため、不動産の買い手が一般課税の課税事業者であれば、インボイスの交付を求められる可能性があります。 

不動産のオーナーが適格請求書発行事業者ではない場合、税負担増を嫌って買い控えにつながる可能性があります。建物の売買価格は高額ですから税負担も大きくなります。一般課税の課税事業者が取引相手となる可能性を考え、適格請求書発行事業者の登録をするかどうか検討が必要です。

不動産のオーナーがインボイス登録せず免税事業者のままでいたい場合は?

適格請求書発行事業者になるかどうかは任意であり、強制ではありません。そのため、登録申請を行わなければ、課税売上が1,000万円未満の場合は免税事業者のままでいられます。 

これまでに解説してきた通り、不動産投資の対象が居住用建物だけであれば家賃は非課税となるため、今まで通りの経営を行うことが可能です。 

★注意★
不動産投資をしている物件対象が事務所や店舗、駐車場などの場合には、オーナーが適格請求書発行事業者でなければ借り主の税負担が増加するため、テナントから退去されたり、賃料の減額を要求されたりするリスクが生じます。 

また、投資対象の建物を売却する場合は売買価格に消費税が課されるため、売却先が一般課税の課税事業者であればインボイスの交付を求められる可能性があります。 

不動産オーナーとして免税事業者のままでいたい場合には、所有物件の種類や条件によってメリットとデメリットがあるといえます。詳しく確認したい場合には、不動産投資会社や税理士など専門家への相談がおすすめです。 

オーナーはインボイス制度の影響を考慮した上で不動産投資をしよう 

今回、解説してきたように、不動産投資を行うオーナーにもインボイス制度への対応が必要な場合はありますが、居住用物件の不動産運用を行っている場合には影響はなく、特に必要な対応もありません。 

ただし、居住用物件以外の不動産に投資対象を広げたり、法人化・課税事業者として不動産投資を行ったりする場合には、適格請求書発行事業者への登録をどうするかを考慮する必要があるでしょう。 

インボイス対応が不要な新築ワンルームマンション投資なら、実績豊富なメイクスにご相談ください。不動産投資の知識を備えたコンサルタントが、最適な不動産投資をサポートします。 

※本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。㈱メイクス・㈱メイクスプラスにおいては、何ら責任を負うものではありません。

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メイクス100年不動産ナビ編集部

メイクス100年不動産ナビ編集部は、不動産投資をはじめ、資産形成についてワクワクしてもらえるようなの情報の提供を目指しています。初心者向けの情報から既にオーナーの方、知見のある方に向けた、不動産投資や資産形成についての疑問を客観的な視点から発信しています。

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