賃貸物件を持つオーナーにとって入居者退去後の原状回復は避けて通れない話題。原状回復の基礎知識をはじめ、賃貸人と賃借人の負担義務、家賃保証会社加入のメリットなどについて解説します。
賃貸物件のオーナーとして「入居者には、できるだけキレイに住んでほしい」とは思っていても、普通に生活しているだけでも、汚れや破損箇所は出てきてしまいます。問題は「退去時に原状回復する責任が、オーナーと入居者のどちらにあるのか?」という点です。
今回は、賃貸物件の原状回復に関する基礎知識をはじめ、「貸主と借主のどちらが責任を負うのか?」をケース別に詳しく解説します。また、家賃保証会社加入のメリットについても紹介します!
目次
そもそも「原状回復」とは?
賃貸物件で入居者が退去する際に行われる「原状回復」ですが、賃貸人(オーナー)と貸借人(入居者)の負担義務については、法律(民法)や国の基準である程度示されています。
はじめに、「原状回復」の考え方やポイントを見ていきましょう。
国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』をチェック
賃貸物件の原状回復をめぐるトラブルは、認識の相違から裁判にまで発展することも珍しくありません。そのため、事前にその「基準」をしっかり把握しておく必要があります。
基準となるのは、国土交通省が発表している『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(以下、「ガイドライン」と記載)です。民間賃貸住宅における敷金返還や原状回復のトラブルを防ぐ目的で策定され、ケース別に「賃貸人と賃借人のどちらが負担すべきものなのか?」を詳しく記載しています。
■参考サイト
住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について – 国土交通省
原状回復の考え方のポイント
ガイドラインにおいて、原状回復の基本的な考え方は以下の3点にまとめられています。
・通常の使用による損耗や経年劣化は賃借人負担としない(賃料に含まれる)
・故意・過失・注意義務違反による汚れや傷、破損は賃借人負担とする
・通常の使用を超える使用の損耗や毀損は賃借人負担とする
つまり、普通の生活をしている範囲では入居者に原状回復の負担はなく、入居者の故意や過失による破損・汚れなど以外は、原則オーナーの負担になるということです。
「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」と明確化
原状回復の基本的な考え方についてガイドラインでは、「原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」と明確化されています。
また、経年劣化や通常の使用による損耗などの修繕費用は賃料に含まれるものとしており、賃借人(入居者)は「通常の使用方法により使用していた状態であれば、使用開始時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すればよい」ものとしています。
★ポイント★
「契約自由の原則」の観点から、「合理的な理由がある」「双方合意している」特約があれば、原状回復義務を超えた範囲でも入居者負担にできる場合もある!
原状回復について基準を示しているガイドラインではありますが、賃貸契約・特約と原状回復については個々の状況によっても異なるので、実際の運用では賃貸契約に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。
賃貸人負担になる可能性の高い代表的なケースとは?
ここからは、一般的に賃貸人(オーナー)負担になり得るケースをいくつか紹介していきます。なお、賃貸契約・特約内容によって負担の有無が異なる場合がありますのでご了承ください。
家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡
タンスや整理棚などの家具を長期間同じ場所に置くと、床やカーペットがへこんだりして設置跡が残ることがあります。このケースでは、生活に必要な通常の使用で生じる設置跡として、入居者には原状回復義務はないとされています。設置跡を修繕する場合の費用は賃貸人負担となります。
テレビ・冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(電気焼け)
通常、テレビや冷蔵庫などの家電は壁面に近づけて設置することが多いでしょう。この際、家電の熱が壁紙に当たって「電気焼け」による汚れや黒ずみが付いてしまうことがあります。長期間にわたって付着した汚れになると、クロスの張り替えが必要になることも…。
このケースの場合、テレビや冷蔵庫は生活必需品であることから、通常の使用により生じた汚れと解釈されます。入居者に原状回復義務はなく、クロスの張り替えなどを行う際は賃貸人負担になります。
壁に貼ったポスターなどが原因のクロスの変色、色落ち
ポスターやカレンダーを壁に貼っていた場合、クロスのその部分だけ跡になり、クロス全体の色に偏りが生じることがあります。日光や蛍光灯が当たってできる日焼けが主な原因です。一見、入居者の負担になりそうな壁の変色や色落ちですが、このケースの場合は、自然現象による通常の生活による損耗と解釈され、クロスの張り替えなどを行う費用は賃貸人負担になります。
画びょうによる壁の穴
ポスターやカレンダーなどを壁に貼ったときにできる画びょうの跡は、通常の生活でできる範囲の損耗と解釈され、入居者に原状回復義務はありません。穴の程度については、普通に生活していて生じる範囲のもので「下地ボードの張り替えが不要な程度」が目安です。
賃借人所有のエアコン設置による壁のビス穴・跡
賃貸物件にエアコンが設置してある場合、賃貸人(オーナー)が設置したエアコンであれば修繕義務は賃貸人が負います。
入居者が自己負担で購入して設置したエアコンであれば、故障したときでも賃貸人に修繕義務はありません。
★ポイント★
入居者が購入したエアコンを設置した場合でも、設置に伴って生じた壁のビス穴や設置跡については、生活必需品の使用に伴ってできた通常の損耗と考えられ、修繕する場合には賃貸人負担になります。
設備・機器の故障・使用不能
・エアコン
・ガス器具
・給湯器
賃貸人側があらかじめ設置した設備・機器が故障したり、使用不能になったりした場合、修繕義務は賃貸人が負います。通常の使用に伴う経年劣化による自然損耗と解釈されるため、入居者に修繕義務はありません。
構造的な欠陥により発生した畳の変色
建物の構造的な欠陥に関する修理・修繕・交換は、賃貸人の負担になります。あらかじめその可能性がある場合は、入居前に入居者に対して説明する必要があることも覚えておきましょう。畳の変色のほか、扉や襖の立て付けが悪く閉まりにくい場合やカビが発生しやすい場合なども、賃貸人の負担に該当するケースが多いと言えます。
畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜の取り替え、鍵の取り替え
賃貸物件の維持管理に必要な修繕については、賃貸人の負担になります。
例えば…
・畳の裏返し
・表替え
・網戸の交換
・浴槽/風呂釜などの取り替え
・鍵の取り替え
などが該当します。いずれも、物件管理上の対応であり、次の入居者を迎えるための化粧直しやグレードアップであるためです。
★ポイント★
入居者が鍵を失くした・壊した場合など、入居者の過失や故意によって生じた修繕・交換については、賃貸人が責任を負う必要はありません。鍵の交換費用は入居者負担になります。
ハウスクリーニング
専門の掃除業者を入れてハウスクリーニングを実施する場合、次の入居者を確保するのが目的の化粧直しのため、通常は賃貸人が負担するものとされています。エアコンの内部洗浄、レンジ周りの油汚れの除去、キッチン・トイレ・浴槽の清掃や消毒も、入居者が通常の生活をして日常的に掃除をしている限りにおいては、入居者に費用負担をさせるのは妥当ではありません。
★ポイント★
喫煙などによる臭いが付着していたり、賃貸契約の特約で入居者負担とすることに合意したりしている場合などには、入居者の負担となります。
賃借人負担になる代表的なケースとは?
これまで解説してきたように、通常は、普通に生活をしていて生じた損耗・経年劣化については、賃貸人が修繕義務を負うものとされます。一方で、賃借人(入居者)負担となるのが明らかなケースもあります。代表的なケースを見ていきましょう。
カーペットのシミ・カビ
飲み物や液体などをこぼして、物件にもともとあったカーペットにシミ・カビが付いてしまった場合は、賃借人に清掃・原状回復の義務が発生します。飲み物などをこぼしてしまうのは通常の生活で避けられないことですが、その後の手入れが不足してシミ・カビが発生するのは、入居者が管理を怠ったものとみなされます。
床・フローリングの汚損
例えば、引っ越し作業中に家具や家電が当たってフローリングが傷ついた場合などは、入居者に原状回復の義務が発生します。冷蔵庫の床面に発生したサビ跡、窓を開けっぱなしにするなど不注意により風雨が吹き込んだことによる色落ちなども、入居者負担となります。
清掃不足による汚れ
入居者が原状回復義務を負うケースは、日常的な清掃不足が多く該当します。床・壁・扉・浴槽・洗面・台所などの設備で、日常的な手入れが悪くて拡大した汚れは入居者に清掃の義務があります。
★ポイント★
退去時にトラブルとなることが多いケースのため、事前に、入居者に定期的な清掃を実施することをお願いしておくと良いでしょう。
喫煙によるクロスの黄ばみ・汚れ
喫煙による汚れの除去に関しては、明らかに通常の使用とは言えないものとされ、入居者負担です。壁のクロスだけではなく、エアコンなどの常設機器に付いたヤニの黄ばみや汚れに関しても同様です。また、クロスやカーペットなどに喫煙による焦げ跡が付いてしまった場合についても、入居者に回復義務があります。
落書きによる壁の汚れ・破損
小さいお子様がいる家庭では、壁などへの落書きやいたずらによる破損は日常的に起こり得ることです。しかし、「子供のしたことだから…」といって修繕義務をあいまいにはできません。通常の使用の範囲ではなく、故意・過失によって生じたものとして、原状回復費用は入居者の負担となります。
★ポイント★
落書きによって張り替えが必要なクロスの箇所は部分的で、かつ経年劣化も考慮されるため、修繕にかかる費用負担額は実態に合わせて算出するのが適正とされています。
ペットによる汚れ、悪臭、破損
ペット飼育を可能にしている賃貸物件の場合、
・フンや尿によるクロス
・床の汚れ/付着した臭い
・柱や壁などの傷
などについての原状回復義務は入居者にあります。
ペット飼育を禁じている場合はもちろん契約違反に当たるので論外ですが、「ペット飼育可」の物件にする際でも、あらかじめ敷金の一部をクリーニング費用に充当するなどの特約を設けておくのがいいでしょう。
鍵の紛失、破損
鍵の紛失や破損は、日常的に適切な使い方・管理をしていれば起こらないものとして、入居者の負担になります。なお、鍵の紛失では経年劣化は考慮されず、交換にかかった費用相当分を全額入居者の負担として構いません。
★ポイント★
入居者が入れ替わったことによる鍵の取り替えの場合は、物件管理上の対応のため、オーナーの負担となります。
【事例】オーナーが実際に体験した原状回復の実態
ここからは、賃貸物件を所有しているオーナーが実際に体験した原状回復の事例を紹介します。
事例1:洗面室の修繕【施工期間:約10日/費用:30,800円(税込)】
①クッションフロア張り替え
洗濯機置き場のクッションフロアが長年の使用により汚れてしまっていたため、張り替え修繕を行いました。木目調のクッションフロアであたたかい雰囲気に変わりました。
②洗面台の修繕
洗面台が欠けてしまっていたため補修を行いました。
2つの修繕を合わせてかかった期間は約10日間で、30,800円(税込)の修繕費用がかかりました。
事例2:全室のクロス張り替え 【施工期間:10日/184,613円(税込)】
全体的にクロスの劣化が進んでおり、ひび割れが入っている箇所もありました。修繕にかかった期間は約10日間で、修繕にかかった費用が184,613円(税込)でした。
事例3:フロアタイル上貼り補修 【施工期間:10日/236,500円(税込)】
フロアタイルが劣化により剥がれてきてしまっているため、新しいフローリング材を上から重ねて貼る「上貼り補修」を行いました。修繕にかかった期間は約10日間で、かかった修繕費用は236,500円(税込)です。
賃借人の費用未払いなどのリスクに備える家賃保証会社とは?
賃借人(入居者)に原状回復義務があると決まった場合、修繕にかかる費用は全て入居者が負担することになります。しかし、原状回復にかかる費用が高額になることもあり、入金がスムーズに行われなかったり、入居者が合意通りに費用を負担してくれなかったりするケースもあり得るでしょう。
そこで頼りになるのが、家賃保証会社(賃貸保証会社)の存在です。
家賃保証会社とは…
入居者の家賃支払いを保証してくれるもので、万一、家賃の滞納が発生したときでも家賃を立て替えてオーナーに支払ってくれるサービスです。近年では、賃貸契約時に、入居者に対して保証会社加入を必須とするケースも増えています。
また、保証会社によっても異なりますが、家賃以外にも保証会社が保証してくれる範囲はさまざまで、オーナーにとってはリスク対策としてぜひ活用したいサービスと言えるでしょう。
家賃だけじゃない!家賃保証会社の保証対象例
家賃滞納のリスクに備えるのが家賃保証のメインのサービスですが、保証範囲は家賃にとどまりません。保証範囲は保証会社によって異なり、対応しているケースでも全てが保証されるわけではありませんが、代表的な保証範囲例について見てみましょう。
保証範囲例:賃料
保証会社は賃借人(入居者)が滞納した家賃を立て替えてオーナーに支払ってくれます。また、月額の賃料だけではなく、管理費や共益費、駐車場代も保証範囲にしている保証会社もあります。ちなみに、保証会社は入居者の滞納分を「肩代わり」するわけではなく、あくまでも一時的な立て替えをしているだけです。立て替えた費用は、当然、後日入居者に請求・催促されます。
保証範囲例:賃借契約の更新料
賃貸契約を更新する際に発生する更新料を保証範囲としている保証会社もあります。居住用の賃貸物件の更新料は一般的に1か月のケースが多いですが、更新月の家賃とは別に上乗せで発生するため、支払いが遅延する入居者もいます。更新料も保証範囲になっていることで、入金が滞るリスクに備えられます。
保証範囲例:ハウスクリーニング費用
入居者が退去した後のハウスクリーニング費用は、次の入居者のために行う物件管理上の対応のため、オーナー負担になるのが通常です。しかし、入居者の過失や故意によるもの、あるいは事前に賃貸契約の特約で双方が合意している場合などには、ハウスクリーニング費用負担を入居者に求めるケースも考えられます。保証会社の中には、そのハウスクリーニング費用を保証範囲としている場合もあります。
保証範囲例:残置物撤去費用
それほど頻発することではありませんが、オーナーを悩ませるのが、入居者が退去時に物件に置いていった残置物です。家具、家電、衣類などが残っていた場合、その撤去をしないとクリーニングにとりかかることもできません。保証会社によっては、残置物の処分にかかる費用を保証範囲としている場合があります。
家賃保証会社と提携のある管理会社にお任せするのがおすすめ
今回解説したように、賃貸物件の原状回復の考え方については国のガイドラインに示されています。日常的な使用に伴う室内の汚れや設備の修繕は、原則として賃貸人(オーナー)に修繕義務が生じるため、計画的な物件管理・資金準備を心がけるのがポイントです。
とはいえ、入居者の故意・過失で修繕が必要になるケースもあり、その際、スムーズに費用負担に合意してくれる入居者ばかりとも限りません。賃貸契約時に家賃保証会社への加入を入居条件とする管理会社にお任せするなど、オーナーにとってもメリットがある対策を講じておくのがおすすめでしょう。
原状回復についてお悩みという方は、実績豊富なメイクスプラスまでお気軽にご相談ください。専門知識を持ったコンサルタントが最適な資産運用をサポートします。
※本記事では、記事のテーマに関する一般的な内容を記載しており、より個別的な制度が読者に適用されるかについては、読者において各記事の分野の専門家にお問い合わせください。㈱メイクス・㈱メイクスプラスにおいては、何ら責任を負うものではありません。