「不動産投資は法人化するとメリットがある」といわれることがあります。ただ、具体的にどのようなメリットがあるのかや、個人と法人でどのような違いがあるのか分からないと思っている方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、不動産投資を個人と法人で行う場合の違いをはじめ、法人化のメリットとデメリット、法人化の手順などについて詳しく解説します。不動産投資の法人化について知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
不動産投資を個人と法人で行う場合の主な違い
不動産投資を、個人で行う場合と法人で行う場合には、大きく分けると税制面と融資面での違いがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
適用される税制(税金の種類や税率)
まず、不動産所得に対して適用される税金は、個人の場合は所得税が、法人の場合は法人税が課されます。所得税は所得が増えるほど税率が上がる超過累進課税なのに対して、法人税では一定率になっていて所得税よりも税率が低くなる場合があります。
また、個人の場合、家賃収入は不動産所得、所有物件の売却益は譲渡所得に計上するため、双方の損益通算(損失を利益で相殺すること)はできません。それに対して法人の場合は、法人税に事業所得という概念がなく、所得が区分されることはありません。よって、赤字のものがあれば差し引いて計算できます。
適用される税制を比較して表にまとめると以下のようになります。なお、単純に所得税と法人税を比較してどちらが節税になるかを比較するものではありません。
■適用される税制の比較
個人の場合 | 法人の場合 | |
適用される税制 | 所得税 | 法人税 |
損益通算 | 家賃収入は不動産所得、所有物件の売却益は譲渡所得に計上するため損益通算はできない | 所得は区分されないため、赤字のものがあれば差し引いて計算できる |
※法人は法人税以外にも事業税・都道府県民税・市町村民税も課税される
※個人は住民税と所得の金額によっては事業税も課税される
融資を受ける際の条件
一般的に、不動産投資において融資を受けるとき、個人の場合には物件の収益性や担保評価と個人の信用力が重視されます。一方、法人で融資を受ける場合に重視されるのは、会社の業績です。
また、審査の際には金融機関などに決算書をチェックされるため、決算内容が悪いと融資を受けるのが難しくなります。法人で融資を受ける場合は、業績が黒字であることや企業の資産状況が潤沢であることで金融機関などからの評価を受けやすいでしょう。
不動産投資を法人化するメリットは?
不動産投資を法人化すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。もちろん個別の状況に応じて得られるメリットは異なりますが、通常、以下のようなメリットがあるとされます。
・節税がしやすくなる
・個人よりも融資が受けやすくなる
・資金調達の選択肢が増える
・繰越損失期間が長くなる
・決算月を任意で決められる
それぞれ詳しく解説していきます。
節税がしやすくなる
不動産投資を法人化するメリットとしてよく挙げられるのが、節税がしやすくなることです。
個人の場合、収入が増えるごとに所得税は大きくなります。所得税の税率は5~45%なので、住民税の10%(自治体独自の増減で変動あり)を合わせると最大55%の税金を納めることになります。対して法人税は一定率となり、所得が多い場合は、所得税率よりも法人税率の方が低くなる場合があります。
所得税と法人税の税率を表にまとめましたので、比較してみると分かりやすいでしょう。
■所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
■法人税の税率(普通法人の場合)
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | |||
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | ||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% |
一定以上の所得がある場合には、法人化することで法人税率が適用されて節税になることが分かるでしょう。
また、法人の方が決算時に経費計上できる範囲が広くなるというのもメリットです。例えば、個人の場合の生命保険料は所得控除の対象ですが一部しか控除されません。一方、法人は全額が損金扱いになる全損タイプのほか、半損タイプ、3分の1損タイプなどさまざまです。種類によって経費にできる額が異なりますので、現在加入している保険がどのタイプか確認するなど注意が必要です。
個人よりも融資が受けやすくなる
法人は個人と比較して融資が受けやすい点もメリットです。これは、登記によって会社情報が公開されていることや、決算時の会計処理が個人よりも厳格にルール化されているため、社会的な信用力が高いからといえるでしょう。
また、個人と違って死亡や相続が発生しないため、貸し倒れリスクが低く、金融機関などにとって貸しやすい対象なのも理由の一つです。
このように、法人は融資が受けやすいことでより多くの不動産に投資することも可能で、事業規模を拡大するためにはとても大きな強みといえます。
資金調達の選択肢が増える
法人の場合、個人と比べて資金調達の選択肢が増えることもメリットです。個人で行う資金調達は、金融機関などからの融資をはじめ補助金や助成金などに限られますが、法人はクラウドファンディングなど別の手段も使えます。
例えば、未公開株に投資する投資型(株式型)のクラウドファンディングは、株式会社でなければ利用できません。事業を継続していく上で、資金調達はとても大切な要素であるため、個人で使えない方法で資金調達できるのは大きなメリットです。
繰越損失期間が長くなる
繰越損失とは、その年度で発生した赤字(損失)部分を翌年以降に繰り越して計上できる制度です。法人の場合、最大10年間に渡って繰り越しができます。
個人でも青色申告で繰越損失を活用できますが、最大3年間しか繰り越すことができません。また、青色申告は複式簿記を使って記帳を行う必要があるため、一定の専門知識が必要になるという注意点があります。なお、複式簿記を使った会計処理が面倒という理由で白色申告にする個人事業主も多いですが、白色申告では繰越損失を活用できません。
決算月を任意で決められる
個人の場合、確定申告時期の関係で事業年度が1月1日~12月31日までと定められているため、12月が決算月となります。一方、法人は決算月の決まりが特にないので、任意で決算月を決めることができ、計画的に節税できるメリットがあります。
決算内容の申告については、個人は3月15日までに確定申告、法人は決算が終わって2カ月以内に申告と納税をします。
注意したいのが、法人は好きなように決算月を決められる反面、タイミングによっては損をする可能性があることです。
例えば、法人は事業を開始してから2期は消費税の納税義務がありません。よって、初年度の事業期間が1年未満になると、消費税の非課税期間が短くなり、結果的に損をしてしまいます。また、決算が終わって申告・納税までが2カ月間とあまり余裕がないため、繁忙期を決算月にするのもおすすめしません。
不動産投資を法人化するデメリットは?
続いては、不動産投資を法人化するデメリットについて見ていきましょう。
節税などの面で法人化のメリットは多いですが、デメリットも知った上で法人化を検討しましょう。法人化のデメリットとして、以下のような点が挙げられます。
・設立手続きをしなければならない
・法人の維持費用が発生する
・会社員の場合、副業の範囲外と判断される可能性がある
・長期譲渡所得の優遇税制が利用できなくなる
・法人設立後に個人所有の不動産を法人に移行させる場合は、登記変更・ローン借り換え手続きが必要
それぞれ詳しく解説していきます。
設立手続きをしなければならない
法人化する場合、まず手続きの手間がかかるというデメリットがあります。個人であれば税務署に開業届を提出するだけで個人事業主としての手続きは完了します。申請書類に記入する項目も少ないので5分ほどで終わります。事業主の登録には、許可の必要もないので待ち時間もほとんどありません。
対して、法人の設立にはたくさんの手続きが必要です。書類や会社印の作成から公正証書役場や法務局への書類提出などの手間がかかります。初めて法人設立の手続きをするという場合がほとんどでしょうから、書類作成に時間がかかるのはもちろん、手続きが複雑で面倒に感じてしまう方も多いでしょう。
法人の維持費用が発生する
法人化することで発生する一定の固定費もデメリットになります。例えば、税理士や会計士に払う顧問料です。
個人事業主と比較すると、法人の税務・会計に関わる処理は複雑で専門性が高くなります。そのため、税理士や会計士と顧問契約を結んで業務を委託するのが一般的です。顧問契約の相場は、法人の年商によっても異なりますが、年間で60万円~80万円程度が目安になります。
法人の固定費には他にも、毎年かかる法人住民税などもあります。
会社員の場合、副業の範囲外と判断される可能性がある
会社員が副業として不動産投資を行っている場合には注意が必要です。会社によっては、副業で不動産投資が認められていたとしても、法人化して法人役員になる(他社の役員に就任する)ことは禁止しているケースもあります。
会社が定める就業規則などによりますが、最悪の場合、懲戒処分の対象となることもあるため、就業規則および人事・総務部門へ事前確認しておきましょう。
長期譲渡所得の優遇税制が利用できなくなる
法人の場合、不動産の個人所有の場合には利用できる長期譲渡所得の優遇制度を利用できないデメリットがあります。長期譲渡所得の優遇制度とは、不動産を所有してから5年を超えて売却すると、5年以下の場合と比べて税率が低くなるという制度です。
具体的には次の税率になります。
・5年以下で売却した場合の税率:約39%(所得税30%・住民税9%)
・5年を超えて売却した場合の税率:約20%(所得税15%・住民税5%)
この優遇制度は個人であれば利用できる制度ですが、法人では利用できません。法人の場合は法人税として計上され、期間に関わらず33~36%程度の税率(中小法人の場合は25〜30%程度)となるため、5年を超えて物件を売却する際は個人よりも不利になります。
法人設立後に個人所有の不動産を法人に移行させる場合は登記変更・ローン借り換え手続きが必要
法人を設立後、個人名義の物件を法人の所有に変更する場合には、登記変更やローンの借り換えなどの手続きが必要です。不動産の所有権が移転されるため、不動産取得税と登記費用なども別途かかります。
法人設立手続きがある上に、登記変更やローンの借り換えなどの移行手続きも発生し、追加費用もかかる点はデメリットといえるでしょう。
不動産投資で法人化が向いているケース
ここからは、不動産投資で法人化するのが向いているケースについて説明していきます。個人で行うことも多い不動産投資ですが、法人化を目指したい方は参考にしてください。
不動産投資を事業目的で行いたい場合
初めから不動産投資を事業目的で行いたい場合は、法人化を検討する余地があります。先述したように、計画的な節税効果が期待でき、金融機関などから融資を受けやすく、事業規模を拡大しやすい強みがあるからです。
個人でスタートして後から法人に変更するのは、手続きの手間とコストがかかります。事業として不動産投資をすることが決まっているのであれば、法人化が向いています。
所得税の税率が20%を超えた場合
個人で不動産投資をする場合、不動産所得に対して所得税が適用されます。所得税率よりも法人税率の方が安くなる「所得税の税率が20%を超える」ラインを目安に、法人化の検討が視野に入ります。
例えば、不動産所得が330万円以上695万円以下の場合、所得税20%と住民税10%で合計30%の税率です。一方、法人税率は15%~23.2%ですので、法人化した方が税率は低くなります。
なお、法人には法人税のほかに、都道府県民税や市町村民税といった住民税と事業税も課されます。そのため、厳密に比較する場合は、これらの数値も調べて比較する必要があります。
あくまでも目安として、、「所得税率>法人税率」となって税率の高低が逆転する所得水準であれば、法人化の検討タイミングといえます。
新築ワンルームマンションを6戸以上所有している場合
新築ワンルームマンションの不動産投資であれば、目安として、6戸以上所有している場合は法人化によってメリットがある可能性があります。おおよそ5万円前後の新築ワンルームの賃料相場を考えると、6戸所有した時点で、個人の場合の所得税率が法人税率を上回る可能性が高いからです。ただし、前述の通り、法人には法人税のほかに住民税や事業税が課されますので、あくまでも目安の一つとして捉えるのが賢明です。
不動産投資で法人化する際の注意点
続いては、不動産投資で法人化する際の注意点について見ていきましょう。メリットだけを考えて法人化してしまうと結果的に損をしてしまうこともあるので、法人化を検討する際の参考にしてください。
小規模投資の場合は法人名義にしない方が良い
小規模投資の場合は、法人化することで得られるメリットが少なく、逆にデメリットが多くなるでしょう。例えば、法人設立時には、自分で手続きする場合でも、定款作成や登録免許税など最低20万円程度がかかります。他にも会社の実印を作成する費用や、手続きを司法書士に代行してもらうと、さらに費用がかかります。
小規模投資のレベルでは、法人化によって得られる収益以上に必要コストがかかるケースがほとんどなので、法人化には向かないといえるでしょう。
法人化すると赤字でも税金がかかる
個人の場合、不動産所得が赤字の場合、給与所得などと損益通算することで課税所得額を抑えることができ、確定申告すると税金の還付を受けられます。
一方、法人化すると、赤字でも法人住民税がかかります。その分、繰越控除などのメリットもありますが、やはり規模が大きく不動産による収益が大きくないと法人化は向かないといえます。
不動産投資の法人化のやり方
最後に、不動産投資を法人化する手順についてのポイントを解説します。実際の手続きは専門家へ相談するのもおすすめですが、法人化のやり方についておおよその流れを把握しておくことで、スムーズに相談・検討ができるでしょう。
1.社名や所在地などを決める
まずは、社名や所在地などの設立事項を決めていきます。社名については、使用可能な文字や記号が決まっています。名刺などに記載する可能性もあるので、覚えやすい社名がおすすめです。
また、所在地となる物件については賃貸物件でも可能ですが、中には法人登記が不可の物件もあるので注意しましょう。
2.印鑑(印章)を作成する
社名が決まったら、会社の実印と銀行印を作成します。実印は、法人登記の申請時や高額な取引をする際の契約書などで使用する重要な印鑑(印章)です。個人の実印と同じく、印鑑登録が必要です。銀行印は銀行での法人口座開設など銀行手続きの際に使用します。
3.書類を作成する
次に、法人登記をするために以下のような書類を作成します。詳しくは法務局などで確認するようにしましょう。
・登記申請書
登記申請時に必要な書類で、社名など必要事項を記入します。法務局のホームページからダウンロード可能です。
・取締役の印鑑証明書
発行3カ月以内が有効期限です。
・定款
会社の基本情報や規則などを記載します。法務局ホームページにひな型があります。
・取締役の就任承諾書
取締役が1名の場合は不要です。
・資本金の払込証明書
資本金を振込んだ後、通帳の記帳欄と表紙、個人情報欄をコピーして表紙をつけ製本したものです。それぞれ見開きページの綴り部分に契印をします。
4.書類を法務局に提出する
書類の作成が終わったら、公証役場で定款の承認を受け、法務局で登記申請と法人の実印登録を行います。受理されてから1~2週間程度で登記が完了されるので、税務署や役所、年金事務所などに設立の届け出をします。
税率などを考慮して最適なタイミングで不動産投資の法人化を!
今回は、不動産投資の法人化をテーマに、メリット・デメリット、法人化の手順などについて解説しました。個人と法人とではそれぞれにメリットがあり、単純に法人化の方がおすすめというわけではありません。不動産投資の目的と事業規模に応じて、法人化によるメリットを最大限に活かせるのであれば、法人化を検討してみるのもいいでしょう。
メイクスでは、新築ワンルームマンションの不動産投資による最適な資産運用をサポートしています。専門知識を持った経験豊富なコンサルタントが無料でご相談を承っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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