私たちが納付する税金の一つに「住民税」があります。税額は、年収や住んでいる地域によっても変わり、不動産投資の運用状況(不動産所得の増減)でも変動します。不動産投資で確定申告をしたり、税金対策を考えたりしている方にとって「不動産投資は住民税にどのような影響するのか」は、気になるところでしょう。
そこで今回は、住民税の基礎知識をはじめ、不動産投資をする上で知っておきたい住民税の仕組みなどを解説します。
※住民税には「個人住民税」と「法人住民税」がありますが、この記事では「個人住民税」について取り上げています。
目次
住民税とは何か?まずはおさらいしてみよう
はじめに、そもそも住民税とはどのようなものなのか、ポイントを見ていきましょう。
住民税は地域の行政サービスの維持に使われる税金
住民税とは、居住地域の地方自治体へ納付する税金の一つで、市町村民税(東京都23区は特別区民税)と都道府県民税の2つがあります。各区市町村が一括徴収し、都道府県民税は各区市町村から都道府県へ払い込まれる仕組みになっています。
また、住民税は、ゴミ処理や教育、消防・救急、福祉など、地域社会で自治体が提供している行政サービスの維持にかかる費用に充てられます。
所得税と住民税の違い
住民税と同様に、個人にかかる税金の一つに「所得税」がありますが、所得税と住民税の違いは以下のような点です。
◆所得税の特徴
・課税主体が国の「国税」。
・所得税のほか、法人税、相続税、贈与税、消費税、酒税、たばこ税、自動車重量税などが国税。
・所得のあったその年(1月~12月の1年間)に課税される。
◆住民税の特徴
・課税主体が地方公共団体の「地方税」。
・住民税のほか、事業税、固定資産税、地方消費税、自動車税などが地方税。
・所得のあったその年の翌年度に課税される。つまり、納付税額は前年の所得に基づく。
住民税の税額はどう決まる?
住民税の算出方法には「所得割」と「均等割」があり、納付する税額はこの2つを合算したものになります。それぞれの特徴を見てみましょう。
所得に比例して課税される「所得割」
所得割は、所得に比例して課税されるものです。税率は、所得に対して一律10%と決められています(2023年4月現在)。前年1月1日から12月31日までの1年間の所得額をもとに算出されます。
定額で課税される「均等割」
均等割は、所得にかかわらず定額で課税されるものです。法律で定められた標準税率が採用されていて、通常は市町村民税(東京都は特別区民税)の部分が3,500円、都道府県民税の部分が1,500円の合計5,000円です(2023年4月現在)。
なお、東日本大震災を契機とした臨時特例法で、2023年度分までは市町村民税(東京都は特別区民税)500円、都道府県税500円の合計1,000円が加算された税額になっています。
また、自治体によっては独自の課税(超過課税)を上乗せしていて、税額が異なるケースもあります。
◆超過課税の例
・宮城県…みやぎ環境税(年額1,200円を上乗せ)
・神奈川県…水源環境を保全・再生するための個人県民税(年額約880円を上乗せ)
「4月から6月に残業を多くすると住民税が高くなる」というのは誤解
よく会社員の間で誤解されているのが「4月から6月に残業をして給料が増えると税金(住民税)が高くなるので、なるべく残業をしないほうがいい」という話です。しかし、先に解説した通り、住民税の税額は1年間の所得額や自治体によって変動し、特定月の給料額だけが影響するわけではありません。
こうした誤解を生む原因として考えられるのが、住民税と同様に毎月の給与から天引きされる「社会保険料」との混同です。
社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上)がありますが、それぞれの保険料は、受け取る給与(税引き前の総支給額)を所定の等級に区分する「標準報酬月額」によって算出されます。そして、等級は以下のタイミングで決定・改定されます。
・毎年1回の「定時決定」時(4月・5月・6月の平均給与額から算出)
・昇給、降給、産前・産後休業、育児休業など、年の途中で給与額が大きく変動したとき
・新卒入社時や中途入社時(受け取る予定の給与額から算出)
多くの人の場合で「定時決定」のタイミング、つまり4月から6月の給与額の影響を受けるため「この時期に残業をする(給与額が増える)=税金が高くなる」という誤解を生んでいるのでしょう。ちなみに、社会保険料が高くなったからといって必ずしもデメリットばかりではありません。例えば、納付する厚生年金保険料が高くなれば、それに応じて将来受け取る年金額は増額されます。
住民税の算出方法の仕組みは?
住民税の税額は「所得割」と「均等割」の合算となることは先述した通りです。ここでは、税額の算出方法の仕組みについて簡単にご紹介します。
税額は各自治体が計算して納税者に通知される
住民税は、課税主体となる各自治体が税額を計算して納税者本人または会社へ通知されるので、自分で計算する必要はありません。通知書類の名称は自治体によっても異なりますが「住民税決定通知書」などと呼ばれるのが一般的です。
税額は前年の所得をもとに計算されますが、納税者が税務署に所得税の確定申告を提出すると、そのデータが各区市町村・都道府県へ送信されて共有される仕組みです。会社が代わりに納付する特別徴収の場合は、会社が前年の「給与支払報告書」を各自治体へ送付しています。
住民税算出のポイント
住民税の税額を算出する際は、以下の流れに沿って計算します。住民税を自分で算出する必要はありませんが、目安を知りたいときは参考にしてください。
★ポイント★
1.所得金額から所得控除額を差し引き、課税対象の金額(課税所得額)を算出する
2.課税所得額に所得割の税率10%を掛け、税額控除額を差し引き、所得割額を算出する
3.所得割額と均等割額を合算する
住民税の納付方法と納期限は?
続いては、住民税の納付方法と納期限について、そのポイントを見ていきましょう。
納付方法
住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」の2種類があります。
・特別徴収
1年間の税額を12分割した税額を、6月から翌年5月にかけて納付します。会社勤めの人が対象で、会社が毎月の給与から天引きして代わりに納付する方法です。
・普通徴収
1年間の税額を4分割した税額を、1期・2期・3期・4期に分けて納付します。フリーランスや個人事業主のほか、会社勤めの人が会社を退職した際や、確定申告の際に普通徴収を選んだ場合の納付方法です。
■関連記事 不動産投資の確定申告のやり方から必要書類、節税のポイントまで解説
納期限
住民税の納期限は納付方法によって異なり、以下のように定められています。
・特別徴収
毎月、給与から徴収した翌月の10日までが納期限。会社が本人の代わりに納付します。
・普通徴収
1期は6月末、2期は8月末、3期は10月末、4期は翌年1月末が納期限。納税者本人が納付します。
前年よりも住民税が高くなる原因は?
ここまでの解説で住民税の仕組みが分かったところで、「今年から住民税が高くなった理由がよく分からない…」「税額が前年と比べて変わることがある?」といった疑問の原因について見ていきましょう。
前年の所得額が増えたから
住民税の算出方法のうち所得割は、前年の所得に比例して課税されます。そのため、所得の増減が影響します。不動産投資を始めて、家賃収入を得られるようになり不動産所得がプラスになれば、課税所得合計額が増えて税額が上がります。
所得控除が減ったから
年末調整や確定申告で申告する各種所得控除も、住民税の税額に影響します。基本的に、控除額が多いほど課税所得が少なくなって税額は抑えられます。しかし、何らかの理由で以前よりも申告した控除の種類や控除額が減っていれば、課税所得合計額が増えて税額が上がることになります。
税率が異なる地域へ引っ越したから
住民税の税率は地方税法で定められている「標準税率」で算出されるので、原則として地域差はありません。ただし、各自治体の裁量(条例)で、標準税率に「超過税率」を上乗せすることが可能です。そのため、一部自治体では住民税の税額を算出する税率が異なり、引っ越したことで税額が変わることがあります。
不動産投資で知っておきたい住民税の節税効果
ここからは、不動産投資を行う上で知っておきたい住民税の税金対策・節税効果のポイントを解説します。
※本記事でいう「節税効果」とは、経費計上により課税対象となる不動産所得が減少するという意味です。経費計上によっても不動産所得が黒字となる場合、当該黒字部分に対応する納税額が発生します。
節税方法1:不動産所得の赤字を損益通算する
投資用物件を運用するには借り入れの返済や経費がかかりますが、支出が家賃収入を上回れば、当然、不動産所得は赤字になります。しかし、確定申告を行うことでこの不動産所得の赤字部分を、給与所得など他の所得の黒字から差し引くことができます。これを「損益通算」といいます。
損益通算で課税所得合計額が圧縮されると、住民税の税額が減り、結果として節税効果が得られることになります。
節税方法2:減価償却期間に注目して不動産を購入する
不動産投資では、購入した物件(資産)の費用を一定年数に分割して、毎年の経費として計上できる「減価償却」を活用できます。不動産所得を圧縮できるので節税効果が期待できます。
減価償却費の算出には、物件価格や築年数が関係してきます。減価償却できる期間(法定耐用年数)は物件の構造によって違い、例えば、鉄筋コンクリート造の躯体の償却年数は47年間で以下のような計算式になります。
「購入物件(償却資産)の価格÷償却年数」
単純化して説明すると、新築物件であれば47年にわたって毎年、減価償却費を計上できることになり、課税対象所得額を抑えることが可能です。購入費用をはじめ管理費など毎月の支出と家賃収入、減価償却のバランスをトータルで考えることで、最適な節税効果を加味した不動産運用ができます。
なお、減価償却費については不動産投資や税務の専門知識が必要なため、検討される際は専門家へ相談するのがおすすめです。
節税方法3:経費をしっかり計上する
これまでにも触れたように、住民税は課税所得合計額に応じて決まります。そのため、不動産所得にかかる経費を忘れずに計上するのがポイントです。
◆経費として認められる(計上できる)もの
・不動産取得税、固定資産税、都市計画税などの税金
・減価償却費
・火災保険、地震保険などの損害保険料
・不動産投資ローンの借入金の利息
・物件管理費、修繕費 など
◆経費として認められない(計上できない)もの
・所得税、住民税、法人税
・スーツなどの装飾品や日用品
・プライベートでの飲食代 など
経費計上できるものの詳細については、関連記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
■関連記事 不動産投資でかかる経費とは?どこまで経費にできるかも解説
節税方法4:青色申告で控除額を増やす方法もある
青色申告は確定申告の制度の一つで、所定の条件を満たすことによって最大65万円の控除が受けられたり、仕事を手伝う家族の給与を経費にできたりするなどの特典があります。事前に税務署へ「所得税の青色申告承認申請手続」をして承認を受ける必要があり、複式簿記による記帳が必須です。
不動産投資の確定申告を行う際のポイントについては、関連記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
■関連記事 不動産投資の確定申告のやり方から必要書類、節税のポイントまで解説
不動産投資で住民税の節税効果を考えるときの注意ポイント
最後に、不動産投資をする上で、住民税の節税効果を考えるときの注意点について見ていきましょう。
特別徴収の場合、会社に住民税額を把握される
会社員の場合、住民税の納付方法は「特別徴収」になるのが通常です。給与から住民税額が天引きされて会社が代納するため、住民税の金額を会社が知ることができます。例えば、不動産所得が増えて課税対象の所得が増えると、給与だけの収入のときと比較して住民税が高くなるので「この人は給与以外の収入を得ているようだ」と分かるわけです。
不動産投資などの副業を認めている会社であれば問題ありませんが、会社が副業を禁止しているケースでは注意が必要です。就業規則などで改めて確認しておくといいでしょう。
不動産投資が黒字の場合は納付方法を普通徴収にする
不動産所得が黒字になると課税対象額が増えて住民税額も上がります。先述したように、会社勤めの人で「会社には不動産投資をしていることを知られたくない」という場合、会社に知られるリスクを回避する方法があります。
手順は簡単です。確定申告の際、給与所得以外の所得分について「普通徴収」を選択するだけ。給与所得以外の税金は自分で納めることができます。
節税効果だけに囚われず長期的な投資視点を大切にする
不動産投資で期待できる節税効果は、認められた経費の計上をはじめ、赤字部分の損益通算、減価償却などを前提にしています。節税を目的化してしまうと、経費計上額を増やしたり無理な運用を行ったりして本末転倒になりかねません。
資産運用の目的は「収益性を高めて利益を得る」ということ。投資物件を健全に運用することが重要であることは欠かせない視点です。
住民税の仕組みを知って効果のある税金対策を!
不動産投資を始めて不動産所得が黒字になると課税所得合計額が上がります。それに伴い、住民税の税額も高くなります。今回、解説したように、居住地域、各種控除や経費計上などによっても異なりますが、基本的に「投資物件が収益化することで住民税は高くなる」と考えておくといいでしょう。
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